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螺旋特急ロストレイルに登録しているキャラクター背後のブログです
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あかいゆめなのに何故ブログは青っぽいのかと聞かれて詰まってしまったどうしようもない生き物。色は青の方が好きなのです。
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本日も快晴。
出かけるにはなかなかの良い日和だ。
クハイレは荷物を持ち、ドアを閉めて外へ出た。
今日は、就職先を探すためでなく、届け物をしに外出する。そもそも、家に篭っているのはあまり好きではないクハイレなので、外へ出る理由があるのは嬉しい。勿論、理由がなくとも外出することはよくあるが。
「あら、こんにちは。お出掛けでございますか?」
ちょうど隣人も出かけるところだったらしく、黒い巻き毛を靡かせた青年が扉を開けた。とろりとした血のような色の瞳がこちらを向く。浅黒い肌の端整な顔立ちが魅力的に微笑んだ。
「ああ。貴女も何処かへ行くのか」
「ええ。知り合いにお届け物をしに参ります」
会釈して、それから傍らのイヌ科の獣にも喉の奥を鳴らして挨拶する。それに、驚いたように青年が目を見開いた。
「話ができるのか?」
「私、本性は狼でございまして」
こう言うと怯える者もいるのだが、青年は素直に受け取ったようだった。自身も魔に属する者だからだろうか。ごく普通に質問してくる。
「じゃあ、名前も知っているのか?」
「この方のお名前でございますか?」
「ああ。言葉が話せないからなんと呼べばいいかわからなくてな・・・」
獣を見やると、茶目っ気たっぷりにウインクを返された。これは、『秘密にしといてくれ』という意味だろう。
「秘密とのことでございます。ご自身のお好きなように呼ばれるのがよろしいのでは?」
「・・・・・・・秘密?」
何故秘密、と顔に書いたままの青年に暇を告げ、クハイレは歩き出した。目指すは知り合いの家。


おんっ
知り合いの家―――正確には知り合いの飼われている家に着くと、知り合いが歓迎の挨拶をしてくれた。意訳『よく来たな!』
おんっおんっ
意訳『遠慮しねえで上がってくんな、クハイレ姐さん!さあさあ!』
そう。
言うまでも無く、知り合いとは、他所様の飼い犬である。
「では遠慮なく上がらせて頂きます」
と、遠慮なく庭に上がる。メイド服の裾が少しばかり汚れたが、気にするほどのことでも無い。
「貴方様にご注文いただきました服はこれに。報酬はご用意できておられますか?」
『モチロンだ!恩にきるぜ姐さん!』
「いえ、食い扶持を稼ぐためですので、恩に着ていただく義理はございません。どうぞお気になさらず」
『かーっ、姐さんは固てえなあ!惚れるぜ!』
「あと10年経ってから出直してきてください」
↑台詞意訳:『百年早い』
(犬にとって10年は人生の半分以上の月日ですから、ひたすら長いのです)
『俺その頃にゃ立てもしねえじいさんだぜ、姐さんは手厳しいなァ!』
「我が銀狼の一族は己より弱い雄には目もくれませんので」
『そりゃー、俺は姐さんよりゃ弱いけどよ・・・』
「貴方様よりは私のお隣の前に住んでいる方のほうがまだ有望でございますね」
『!姐さん、そりゃあの灰色か!?チクショウ、次に遭ったらこてんぱんに叩きのめしてやらァ!』
「体格からして負けているではありませんか。無駄なことはお止めになった方がよろしゅうございます。それよりも報酬はいずこでございますか?」
『あァ、そこに置いてある。しかし姐さん・・・ホントに手厳しいぜ・・・』
堂々たる体躯のゴールデンレトリバーがしゅんと項垂れる光景はどこか抱きつきたい衝動を沸きたてるものだったが、クハイレはさっさと『報酬』のほうに顔を向けた。
そこには、どうやって入手したものやら、鶏が三匹転がっていた。
「確かに。よくご用意できましたね」
『まァな。たまにマスターが山に放してくれんだけどよ、そん時野生のチャボが居やがったんでぃ』
「なるほど。あい分かりましてございます。では、ここで頂いてもよろしゅうございますか?」
『オウ、存分に食ってけや』
服を脱ぎ捨て、銀狼の姿になったクハイレを、ゴールデンレトリバーは眩しげに見る。
『やっぱ姐さん惚れるぜ・・・』
『百年早いと先程言うたであろうが』
『考え直す気ないのかよ姐さん。ってかよ、人型と獣型で態度ちがわねぇか?』
『本来の姿になってまで人間の礼儀を貫く謂れなどないわ。郷に入れば郷に従えという言葉はまこと、名言よの』
獲物を喰らい、口についた血を舐めとる仕草までもが凛々しくて、ゴールデンレトリバーは思わず『兄貴』と呼びたくなった。
『そも、この街にはなかなか良い雄どもがいやる。魔界であれば戦いを申し込むものを、人間社会とはまこと面倒よ。雌だからという理由で戦わぬ者どもがおるでな。そなたまで雌とは戦わぬとは言うまいな?』
ちらりと流し目をくれると、銀狼に見惚れていたゴールデンレトリバーは、飛び上がった。今、眼でコロシた。
『姐さん!眼で殺すんじゃねーや!うっかり骨抜きにされるとこだぜ』
『わけのわからぬことを言うでないわ。私は眼で生物を殺す能力など備えておらぬえ』
真面目に言う銀狼に、なんだかゴールデンレトリバーはめろめろになった。『か、かわいいぜ姐さん・・・』

「誰ですか!」

家の住人が、クハイレに気付いたようだった。まあ、それも当然かもしれなかった。なにせ、クハイレの身体はゆうにゴールデンレトリバーの2倍以上、それが鶏をバリバリと平らげているのである。しかも先からずっと喋って(吼えて)いるので、異変を感じた住人が顔を覗かせてもおかしくはなかった。
家の住人は、天使だった。
『なるほど。あいわかった。ああも羽が出ていては、服も着辛いであろうよ』
『なー?俺が姐さんに服作ってくれって言った意味、わかっただろ?』
天使は巨大な狼に驚いたようだったが、自分の犬がその隣で仲良さ気にしているのにはもっと驚いたようだった。ついで、その狼が女性に変じたのには、更に驚いたようだった。
「このような格好で失礼致します、私クハイレ・ウヴェウィンベレと申します。以後お見知り置きの程よろしくお願いします」
「あ、はい、その、とりあえず服を着て下さい」
『クハイレ姐さん、マスターにゃそのカッコはキツイぜ』
そしてやっぱり、素っ裸だった。


「お見苦しいものをお見せしまして申し訳ありません。こちらの方からの依頼がございましたので、勝手にお庭に侵入させていただいた所存でございまして」
「依頼・・・?」
『マスター、これこれ、こっち見てくんな!』
犬がくわえて差し出したのは、紙袋。「どうぞ、お手にとってお確かめ下さいませ」とクハイレが言ったのに押されて、天使は紙袋を開ける。中には、服が入っていた。
「これは・・・」
長袖の白いシャツ、半袖ポロシャツ、Tシャツ、薄手の上着。そしてそのどれもが、背中の生地に2本の切れこみが入り、ボタンがついていた。羽の生えた天使専用の、羽を背中から出せる服である。
「こ、れは」
「こちらの方からの贈り物だそうでございます。私がご注文を頂き、つくらせていただきました」
羽を収納することの出来ない天使は、大きめの服を着て翼ごと服のなかに仕舞いこむか、背中の大きく開いた服しか着られなかった。それを見かねた飼い犬が、知り合いのクハイレに頼んで特注で作ってもらったのが、この服である。
「報酬は頂きましたので、お構いなく。また御用の際はこちらの方に言付けておいて下さればよろしゅうございます。では私はこれにて」
言葉の出なくなっている天使にそう言うと、ゴールデンレトリバーに目を向ける。
『姐さん、ありがとよ!マスターも喜びのあまりどうしたらいいかわかんなくなっちまってらァ』
「気にすることはございません。ではまた」
『おウ!惚れるぜ姐さん、またな!』


「今日は久しぶりの御馳走でございましたね」
ぺろり、と唇を舐めて、クハイレはひとりごちた。
そのうち、あのゴールデンレトリバーに鶏が捕れる場所を教えて貰って、行ってみるとしよう。



後日、『姐さん!クハイレ姐さん!マスターが茶ァしたいって呼んでるぜ!上がってくんねぇか?』とゴールデンレトリバーに呼び止められ、クハイレはお得意様を手に入れることになる。
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