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螺旋特急ロストレイルに登録しているキャラクター背後のブログです
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魔王シェリダン・ストーンウォークの一日


・起床

朝。
カーテンから差し込む光が熱を帯びてくる頃、シェリダンは起きてくる。
欠伸を漏らしつつ起き上がり、流しに向かいながら夜着代わりのシャツを脱いで洗濯機に放り込む。朝に風呂に入る主義の彼はそのままバスルームへ直行する。

・朝食

生乾きの髪を後頭部で適当に括り、洗いざらしのコットンシャツとGパンという無造作な格好で冷蔵庫を開け、昨日作った野菜炒めの残りとベーコン、ミネラルウォーターを取り出す。パンの上に野菜炒めをのせて、さらにその上にベーコンをのせ、トースターでベーコンの端が焦げるまで焼き、完成。
以前、人間だった頃はこんなものではとても昼までもたなかったことを考えると、今の身体はずいぶん燃費がいい。

・午前中
朝食の後片付けをして、家の中を適当に掃除した後、出かける。何も予定が無い日は図書館に行って知識の吸収に努める。
ちなみに家の前には、銀幕市に実体化して一番最初に出会った生物――外見は灰色の犬だか狼だか――がいる。どうやらムービースターらしいのだが、話せないのでいまいちわからない。しかし基本的に言葉はわかるようで、妙に人間臭い仕草をすることがあり、シェリダンはこの不思議な獣と奇妙な仲間意識を育んでいた。

「昼食を食べに行くが、来るか?」
「オンッ」

名前の無い獣を、シェリダンは結構気に入っている。


・昼食

「マックは安くていい」
「アウッ」

シェリダンは安いマクドナルドを重宝している。持っていたクーポン券が毎日着実に無くなっていっていることからも、その使用頻度の多さが窺われる。
シェリダンはハンバーガーを2つ買い、ひとつを足元に伏せている獣に与えた。
遠慮なく喰いつく獣を横目に、シェリダンもハンバーガーにかぶりつく。首輪もつけていない大きな犬っぽい生き物と黒い巻き毛の間から覗く臙脂色の角は人目を集めたが、シェリダンはもう気にしないことにしていた。

浅黒い滑らかな肌の、麗しく整った顔立ちと元・貴族ゆえの優雅な動作とが女性からのアツい眼差しを集めているとは思い至らないシェリダンだったが。

・午後

午後は主に買い物に使う。
あっちこっちのマーケットをまわり、安売りしていて品質が悪質でないものを血眼で捜すのだ。

「確か洗剤が切れかけてたな。・・・アスパラガス?初めて見る野菜だな。よし、安いし食べてみよう。それから油と卵がもう無い。あとは・・・ん、みりんが半額?」

長身のシェリダンが主婦に紛れて買い物をするのには一見、かなりの違和感が付き纏うが。

「あらーぁ、シェリダンさんじゃないのー。今日はアジが安かったわよー」
「あらっ。アスパラガスなんか買っちゃって、あっちの大通りのマーケットの方でレタスが安かったわよ」
「ああ・・・こんにちは、タカダさん、ハスダさん。アジとは?初めて聞く食材だ。それからハスダさん、安売り情報はありがたいがレタスはもう買ってある。ここではみりんが半額だそうだ、家計が助かるな。アスパラガスは初めて食べるんだが、安かったからな。何か良い調理法を知っていれば教えて欲しいのだが」

シェリダンはちゃっかりしっかり安売りに群がる猛者(主婦)たちと友好関係を結んでいた。

・夕食

着実に料理のレパートリーを増やしながら猛者たちと別れた後、シェリダンは帰宅した。
いそいそと夕食の準備にかかる。夕食を食べた後は仕事だ。あまりのんびりはできない。
鍋にだしをとった水を入れて火にかけ、ニラを手早く洗って切った。卵を小さなボールにあけてニラを入れ、混ぜ、終わったら冷蔵庫へ。フライパンを火にかけ、油をしき、牛のひき肉を用意する。辛味噌は確か、まだあったはずだ。豆腐も買ってきた。
本日のメニューはニラの玉子とじと麻婆豆腐+白飯、トマトの輪切りとレタスのサラダ。
アスパラガスは明日にとっておくことにした。
麻婆豆腐は余ったら夜食に持って行こう。

・夜

獣に家の鍵を預けて出勤。商店街から外れたところにある小ぢんまりとしたバー。店名「BLACK  JOKE」。
店の名前を知った時、彼は思わず言ってしまったものだ。「何の悪い冗談だ」まさにブラックジョーク。
真面目に商売をする気があるのかと聞きたくなるほど小さな店内は、しかしあまり狭さを感じさせない。カウンターにはストゥールが3つ、あとは二人掛けの小さなテーブルが2つ。
酒は店主の趣味もあり上質のものが置いてあるが、少数の酒好きしか知らない穴場だという。

「や、お早うシェリダン君」

店主はシェリダンが出勤してから起きる。小さな店の奥には店主の住居があるらしい。らしい、というのは、シェリダンがそこまで奥に入ったことが無いからだ。店主が時々なんだかよくわからない言葉を呟きながら出て来て「あっ、ヤバイヤバイこれ以上唱えたら召喚しちゃうよ」とか言っている理由も、たぶん知らない方がいい。
時々こっそりシェリダンに飲ませようとしている紫色のゲル状の何かの正体も、たぶん知らない方がいい。

シェリダンがなぜこんなヤバイ店主の店で働いているのかというと、もちろん趣味が合ったからとかいう地獄に堕ちてもありえないというか合いたくない理由からではない。
当初、まだシェリダンが店主のヤバさを知らなかった頃、レイエンが店にやってきて、絡んできた客と飲み比べを始めてしまったのだ。無論、酒に酔うわけが無いレイエンが勝ったのだが、その時の酒代は相当な額になった。そしてレイエンはこともあろうに「私はお金は持っていない」と言い放った。
シェリダンは、知り合いということで当然のように酒代の肩代わりをすることになってしまい、毎月給料の中から少しずつ払うとして、少なくとも一年は店に留まることになってしまった。
嗚呼、まさにブラックジョーク。
シェリダンは店主に会うたび、己の運の悪さを呪う。

・深夜

「今日も生き延びたか・・・」

店主がミネラルウォーターに混ぜた不吉な迷彩色の物体を店主に突っ返し、帰宅して家の前に座る獣を見るとき、シェリダンは己の無事を再確認する。そしていつも思うのだった。

「毎日生きててよかったと思ってしまうこの環境が嫌だ・・・」

そもそもあの店主は透明なミネラルウォーターに毎回毒々しい色の物体を入れて、バレないとでも思っているのだろうか。客と話しているときはインテリに見えるのに、中身はとんだ馬鹿なのかもしれない。

仕事着を脱いでハンガーにかけ、夜着代わりのシャツを引っ掛け、歯を磨いて顔を洗ったあとベッドに入る。
静まり返った夜の中、魔王になってしまった人間の一日が終わる。


魔王シェリダン・ストーンウォークの一日  完

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