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螺旋特急ロストレイルに登録しているキャラクター背後のブログです
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注:暗いです。暗黒時代です。




銀幕市に実体化してから、私は奇妙な感覚を抱いた。
私の生きていたあの世界―――私が生まれ、死んだあの世界が虚構だと聞かされた。―――ありえない。あの世界が嘘だというなら―――×××様は。小さくなって泣いていた、あの子は。殺された私は。
―――一体何だったと言うのだ。

「×××様」
「く――れ、と」
「クハイレ、とお呼び下さい、×××様」
「くぁいれ、と」
「クハイレでございます」
「く――う―――。くれ、と」
「努力を放棄してはなりません。クハイレです」
「愛してる、許して?」
「・・・もしや、『愛に免じて見逃して』とでも言いたいのでございますか?全く、いったいどなたからそんな殺し文句を教わったのやら・・・貴方様はまだ、愛を語らずともようございます。―――このような状況で」
クハイレの前には、冷たい石の床にぺたりと座り込んだ男の子がいた。身体中に生々しい傷があり、治りかけのものも、ふさがったばかりのものもいたるところにあった。
そして、それは――――噛み痕によく、似ていた。
クハイレは、痛ましげに、しかしどうすることもできずに少年を見つめる。
―――せめてこの身が自由であったなら―――
この子をここから連れ出すことくらいは、できただろうに。
「く、れと?」
少年がくてんと首を傾げる。クハイレは、首をふって微笑んだ。少年の両眼に巻かれた布を見つめる。
―――たとえ、少年の瞳がすでに潰れていて光を映さずとも。
この少年は、聡いのだ。
「何も――・・・ございません」
「真実?」
「×××様、このような場合は『本当ですか?』というのが正しゅうございます」
「ほ、ほんとうですか」
「よくできました。ええ、本当でございますよ」
「ほんとうです―か!」
「『本当ですか』。」
「ほ、本当、ですか。」
「はい、宜しゅうございます。」
人間の年齢にして7歳だろうか。幼い顔に喜色を湛えて、同年代の子等より4,5年は幼い表情をする。こんな状況でよくもまあこんなに素直な子供になったものだと、心から思う。
ヴァンパイアの母親とヴァンパイアの父親から生まれた、「人間」の子供。
貴族である己の血筋を誇りに思っていた母親からは拒絶され、人間をゴミのようにしか思っていなかった父親からは完璧に存在を否定された。あっさり捨てられようとしていたところに祖父から提案があり、生かされることになった。「成長させてからヴァンパイアにすればよい」と。
それ以来、子供はずっとこの部屋に閉じ込められたままだ。窓すらない、石造りの冷たい小さな部屋。食事の時以外、召使の誰一人として近付かない部屋。
――時折、数ヶ月に一度だろうか。屋敷の当主やその親族が入っていく。そのたびに少年の傷が増えてゆく。そして、皮肉なことに、少年が出会う生き物といえば、その親族達しかいないのだ。少年を嘲り、少年を傷つける気位の高いヴァンパイアのみが、少年に感情を投げかけ、言葉を投げつけた。
―――全く、本当に、よくもまあこんな純粋に育っているものだ。
少年は一日に2,3時間クハイレと会話するようになってからぐんと感情表現の幅が大きくなり、語彙も増えた。それは恐ろしいほどの吸収力で、話すのは難しくても、聞き取りはもうほとんど完璧と言ってよかった。
おそらく、普通の人間のように育っていたら、今頃は神童と呼ばれるほどの聡明さを身につけていたのではないかと思う。―――普通の環境で、育ってさえいれば。
「×××様、ではお時間がまいりましたのでこれにて失礼致します」
「くれ―、と、行く?ここから、消える?」
「いいえ、また来ます。それまで待っていてくださいますか?必ず、まいりますので」
本当によくこの少年は言葉を吸収する。「ここから消えろ」と何度も言われたのだろう、その言葉を理解して使う。少年に投げかけられる言葉は罵声が多いのだ。理解して覚えている言葉も、罵声が一番多いのだろう。
「また来る。楽しみに待っていろ。くれと、待っていろ?」
「またそんな殿方の捨て台詞のような言葉を・・・『待っています』というのですよ。『待っていろ』というのは私が貴方様に対して使う言葉でございます」
「理解した。待っていま、す」


思えばあの小さな子供と一緒にいた時期、子供もクハイレも幸せだったことはなかった。クハイレは無理矢理捕獲され使い魔になったため主人に逆らうことは許されなかったし、子供は親族達にていのいい玩具として扱われ、子供が成長し青年になり、ヴァンパイアになって簡単に死ぬことがなくなるとそれは尚更酷くなった。
それは、この時から約200年後、クハイレが死ぬ時もかわりなかった。
余興として狩りが行われた時、クハイレが獲物に選ばれたのだ。
クハイレは、この時ほど己の外見を厭うたことはなかった。銀狼の一族は己の姿に誇りを持っているからだ。
銀狼。
狩猟本能をもつ生物なら誰もが獲物にしたい、と望むほどの、クハイレは見事な銀狼だった。
追われ狩られてそして最後、朦朧とする意識の中。
200年もの間、クハイレの心を和ませてくれた、子供の様でもあり弟のようでもあった彼の、絶望的な慟哭の声が、聞こえた。暗く濁っていく視界の中で、彼の泣き顔が、歪んで、消えた。
―――どうか、悲しまないで、と言ってあげたかった。
―――ありがとう、と言ってあげたかった。
―――そして、逃げて、幸せになってくれ、と。

クハイレが未練もなく逝けるのは、間違いなく、不幸でしかなかった世界に幸せを運んでくれた、彼のおかげなのだから。



しかし映画を見てみると、彼は逃げる必要なんかなかった。泣きながら一族郎党ことごとく殲滅して、クハイレの骸を永久凍土の地の氷に埋葬し、魔界の闇の中へまぎれて行った。
その後1000年以上の時が経ち、彼にも楽しく笑いあえる仲間が出来ていたのを見た時は心の底からの笑みが広がったものだ。―――よかった。彼は、ようやく幸せになれたのだ。
幸せではなかったけれど決して不幸でもなかった200年をくれた彼に、幸せを。たとえそれが、映画の中という虚構であっても。

ただ、ひとつ言いたいことがあるとすれば。

「以前はあんなに素直でいらしたのに・・・1000年以上経つと素直でなくなるものなのでございましょうか」

元・教育係としての、捻くれてしまった教え子への、説教をひとつ。
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