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螺旋特急ロストレイルに登録しているキャラクター背後のブログです
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赤夢
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物書きと読書と映画
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あかいゆめなのに何故ブログは青っぽいのかと聞かれて詰まってしまったどうしようもない生き物。色は青の方が好きなのです。
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シェリダンは、毎日、人間だったころの日々を思い出す。
貧しさは人の心を蝕むか?
―――否。


「にーちゃーん!」
近所の子供たちの元気な声が近付いてきた。
赤毛のビル、アッシュブロンドのセス、黒髪のマナ、茶髪のマーク。
その格好はひどいもので、襤褸切れを纏っているとしか言いようがない。それでも泥に汚れた顔ははちきれんばかりの生命力に輝いているし、その明るい瞳にはこの境遇を嘆いているような陰はこれっぽっちもない。
「ビリー、セス、マナ、マック」
一人一人名前を呼ぶと、嬉しそうに駆け寄ってくる。
その光景は、一種異様であった。
きちんとした宮廷服をその身にまとい、一片の曇りもなく銀に近い金髪をリボンで括った白皙の青年が、ボロ切れを着た子供の乞食を相手に眩しいばかりの微笑みを浮かべて待っているのだ。
その容姿、立ち居振る舞いなどから貴族と知れる青年が、だ。
「おかえりー!」
ぎゅうぎゅうと抱きついた子供たちの頭をポン、と叩いて、彼は優しげな微笑みを浮かべたまま黒髪の子供を吊り上げた。
「なんだよ、離せよー!」
「財布を返したらな」
青年がそういうと、子供たちは顔を見合わせた。
「・・・バレた?」
「今度も失敗ー」
「にーちゃん、隙がなさすぎー」
どうやら抱きついた隙に財布をすりとっていたらしい。
「おまえたちね、年季が違うんだからそう簡単に騙されるわけないだろう」
と、いうか。
会う度に走り寄ってきて財布を掠め取ろうとするのだから、騙される以前の問題だ。とはいえ、四人の子供たちのうち誰がすりとったのかはそう簡単にわかるはずがないのだが。
「仕方ないねー」
「しょうじんします」
「次こそは!」
「にーちゃん、今日のごはん何」
好き勝手に騒ぐ子供たちに、青年は明るい緑の瞳を瞬かせた。
「今日も収穫がなかったのか?」
「今日もってなんだー!」
「ひびがんばっているのです」
「昨日は一回成功したよ!」
「今日はおかねがないからごはんちょーだい」
子供たちはスリをして生活している。
収穫があった日にはご飯にありつけるが、なかった日にはすきっ腹を抱えて寝るしかない、そんな生活を送っている。彼らでは、幼すぎて雇ってくれるところがないのだ。
そんな4人は、稼ぎのない日はこの貴族の青年にたかっている。
「四人いるんだから連携してやればかなり出来るだろうに・・・バラバラでやろうとするからダメなんだ」
「いつかにーちゃんに追いついて見せる!」
「でんせつのすりしをこえるのだあ!」
「できるもんならやっとるわい!」
「ねーにーちゃーん、ごーはーんー」
「マナ、とりあえず財布」
「ちぇー」
しぶしぶと手にした布袋を返すと、青年はそれを受け取って懐に収めた。
「残念ながら今日は貴族のお勤めをしてきたから、働く時間は無かったしな。財布の中には一銭もない」
「「「「えー!!!!」」」」
「仕方ない、今日は草でも食べてしのげ」
「やだー!」
「こないだ食べたらおなかこわしたよ!」
「青臭いからやだー!」
「にくがたべたーい!」
「夜会なんて貴族めー!」
「にーちゃんのばかー!」
「どーせにーちゃんはたらふく食ってきたんだろー!」
「いーなー!」
「失礼な、夜会ではそんながっついて食べないもんだぞ」
青年が懐から出した包みに、子供たちは一斉に口を噤んだ。

ごくり、と生唾を飲み込む音がする。
青年が開けた包みのなかには―――色鮮やかな果物が四つ入っていた。
「にーちゃーん!」
「だいすきだー!」
「あいしてるぅー!」
「しびれるぜにーちゃん!」
先を争うように果物を掴み、かぶりつく。
夢中になって食べる子供たちを見回し、ポケットから葉を取り出した。それを食べてから、自分も果物にありつく。子供たちにあげた物とは違う、ひとまわり小さなサイズの青い果物だ。
「にーちゃん?それ・・・」
「熟してないパッキヤの実って毒があるんじゃなかった?」
「あれ?にーちゃんが教えてくれたんだよね?」
「にーちゃーん!死ぬなー!食うなー!」
「食うなー!」と声を上げる子供たちに、青年はあっけらかんとして答える。
「夜会ですすめられて、もうこれで三個目だが」
「にーちゃんがしぬー!」
「死ぬなよにーちゃーん!」
「にーちゃんが死んだらかねづるがー!」
「ちがうよ、ごはんづるだよ!」
「おまえらな・・・」
青年は呆れたように言うと、実を全部食べつくしてから答えた。
「毒消しも一緒に食べてるから平気だ。おおかた自分に死んで欲しくて食わせたんだろうがな。パッキヤの実は高級で珍しいから、すすめられて食べないものは滅多にいない。パッキヤの実が、熟していない状態では毒であるということも、知っているものは殆どいない。」
「なんだ、にーちゃんいのちをねらわれてたのか」
「おもしれー!きったはったのだいすぺくたくる劇!」
「でもにーちゃん、パッキヤの実ってあっちの山のなかに生えてるよな」
「あれ?にーちゃんが教えてくれて盗んできたよなー?」
「ああ、あれはパッキヤの農園持ってる伯爵が偉そうに「跪け」とか言ってきたからな」
「うぇっ!へんたいだ!」
「じょおうさまだ!」
「にーちゃん、ひざまずいた?」
「おれ、にーちゃんにならひざまずいてもいい。ごはんくれるし」
「ぎゃあ!」
「へんたいだ!セス、へんたいだ!」
「ちげーよ!ちゅうせいをちかうっていみだよ!」
「あ、それなら僕もー」
「だれがおまえらににーちゃんをやるか!ご飯はおれのだー!」
「我はご飯か・・・」
子供たちは直球だ。黒々しい貴族の笑みを見た後では心が洗われて新鮮ですらある。
「まぁいい、じゃあ明日は食べられる雑草を教えてやるから、雑草スープが食べたい奴はゴミ捨て場から器を拾ってきてよく洗っておけ。昼までに金を稼いできて、調味料を買えればいいな」
「わーい!」
「はりきるぞ!はりきっちゃうぞ!」
「目標はひとりひとつ!」
「にーちゃん、我ってえらそうだよね」
わいわい騒ぎながら、斜陽の中歩いてゆく影は、どこからみても楽しげで幸せそうだった。


シェリダンは、その思い出を、生涯忘れることはない。
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