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螺旋特急ロストレイルに登録しているキャラクター背後のブログです
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怪電波発信ちゅう(~・・)~ ≫≫≫≫≫【愛の某方へ】

店主は、以前にも「おトモダチの家に行ってくるよ」と言って夜中に出て行ったことがある。
ぶつぶつと文句を言いながら仕方無さそうに出かけて行ったのでそんなに仲の悪い友人の家に行くのかと思ったのだが、次の日出勤したシェリダンは店主に血の臭いを嗅ぎ取った。シェリダンが人間だった頃には気付けなかっただろう複数の人間の血の臭い、それに店主自身の血の臭い。
一体何処で何をしてきたんだ。
シェリダンは店で一番高い酒を人質、いや酒質にとって小一時間追及したい衝動に駆られたがどうせ店主のことだから何をしたって話しはしないのだ。
何を考えているんだか全く分からないが、恐らく前に店に来た殺し屋に関係しているのだろう。というかそれ以外に思いつかないが、店主が以前こぼした「ちまちま潰してる」という言葉が正しいのなら「潰し」に行ったのだろうと思う。
しかし店員にも危険が及んでいるのだから、状況説明か危険手当かのどちらかくらいは出してもらいたいものだ。いっそ本当に請求するか。
店に来た殺し屋だけでなく、家に帰る途中で殺気を感じたりしたこともあったのだが、明らかに店長のとばっちりだったので大体は煙に巻いた。そういうスキルは子どもの頃から鍛えてあるので得意だ。
魔王なら魔王らしく魔法という便利な物を使うべきなのかもしれないが、シェリダンは自分が魔王になったという事実を受け止めていながらまだ人間に未練があった。「魔王の力」はシェリダンにとってトラウマそのものであり、実質鏡で自分の姿を見るのも避けている状態なのだ。
悲劇はまだシェリダンの中で色鮮やかに甦り、彼を殺そうとする。
幸い、今のところは極貧時代で培ったスキルでほぼ全てのトラブルを解決できているが、人ならざるものの多い銀幕市で暮らすにはおのずと支障が出てくる。普通の生活をしているのなら能力は必要ないのだが、時々起こるトラブルがそれを許さないのだ。
シェリダンは、自分の外見を厭わない銀幕市を心底善いところだと思っているが、それでも憂鬱になる時はあるのだった。
もっとも、そんな感傷は店主がしばしばとんでもないことを仕出かすのでほとんど吹き飛ばされがちであるのだが。

「じゃあ行ってくるよ。…シェリダン君?シェリダンくーん?」
ひらひらと顔の前で手をふられてはっと物思いから覚めたシェリダンは、店主の顔がどアップで超至近距離にあることに気付いて顔を引き攣らせて仰け反った。
「何やってるんですか店長…!」
「ぼーっとしてたから遊んでみtwy;$#’m”#prpy!?」
店主が青筋を浮かべたシェリダンに紫電を飛ばされるのも自業自得と言えた。


店主はマイペースに歩きながら山に向かっていた。勿論、本当に山に登ろうとしているのではなく、山の近くにある邸宅に向かっているのだ。
歩くたび、背中にシェリダンに持って行けとバッグに詰め込まれたワインの箱が当たる。中でたぷんとワインが揺れるのを感じて、日に焼けていない白い肌に苦笑が刻まれた。
どうもしっくりこないと言おうか。
あの御仁に、こんなものが「手土産」になりうるのだろうか。
血の美味しそうな「獲物」でも引き摺っていった方がずっと「らしい」気がする。しかし下手をすると一般常識についてこんこんと諭されそうな気もする。果たしてどっちだろうか。
じゃあ、次に追っ手が来たら傷つけないで確保…できるかな。なにせ相手は狂信者。己を絶対的な神の僕、と信じている者達。シェリダン君は殺し屋と思っているようだが、あれはプロではない。
しかしだからと言って無傷で捕らわれるほど相手も弱くはないだろうし、自分もそれほど強くない。
「どうやって捕まえようかねー…」
ナチュラルに人でなしなことを考えながら、森の小道をローブ姿の店主が静かに歩んでゆく。
ぼんやりと辺りが霞む誰そ彼刻。
眼前に現れる魔の館。
品のある趣と独特の威厳が調和し、夜にも似た空気を纏う堂々たる館。
斜陽で茜色に染まった館は、既に夜の影を其処此処に宿している。
流石、と店主は感心した視線を投げた。こんな雰囲気あふれる、『空気』を持つ洋館に入るのはどれくらいぶりだろうか?
懐かしさを感じながら、普通の日本人なら完全に呑まれてしまうような邸へ歩調を変えず歩み寄る。
装飾のなされたアンティークのような高い柵の門の間をすり抜け、重厚な扉の前に立つ。薔薇を模したノッカーを二度、規則的に鳴らすと、黒髪のメイドが出てきて静かに用件を尋ねた。
なるべくにこやかに応えたつもりだが、シェリダンに「何ですか急に気持ち悪い」と散々貶されているので最近は自分の愛想笑いに疑問を持っている。母国での評判は良かったのだが。
まあ、心底からの笑顔などもう何十年も浮かべていない。…いや、魔法薬が上手く出来た時などは我ながら会心の笑みを浮かべているような気がするが。
とにかくもこの館の主の蔵書を読ませてもらうからには挨拶はしておかねばならない。メイドに案内され、気はすっかり魔導研究に向いているが辛うじて常識を知っている店主はとある一室の前に立つ。
ノックの後、扉がゆっくりと開かれる。
華美ではないが質素でもない、趣味の良い品々で統一された室内で、黒いスーツを見事なまでに着こなした男が笑む。
館と良く似た空気を纏う館主、影を持たぬ古きヴァンパイア、生ける死者が浮かべる笑みは穏やかで、しかし見る者によってはとても蟲惑的だ。視線一つでオトされるというのもまんざら嘘ではないらしい。
館と良く似た、夜の静謐を纏う男――いや、館に似ているのではない。「館の纏う空気が」、「主に」、似ているのだ。この吸血鬼がどれほどの年月をこの館で過ごしてきたのかは知らないが、なんとも忠義な館ではないか。
そんなとりとめのないことを考えながら、店主はドアの敷居を跨いで一歩、室内へ踏み出す。
――いっそ、ワインに僕の血を注いで差し出してみるのも一興か。
そんな想像に自然に笑いがこみあげてきて、顔に貼り付けた笑みと溶けあっていく。
まるでそれすらもお見通しであるかのように、老練なヴァンピルは笑みを深めた。
メイドが彼の後ろで静かに扉を閉める。


―――パタン……

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