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終りです。
変態大富豪の目から見たらそう見えたらしいですね。
DDは透視装置なんぞを持っていやがった変態大富豪をこの世から滅殺したい衝動に駆られながら、銃に伸びようとする手を抑えていた。後で依頼主に抗議しようかと似合わない事すら考えたが、そもそもこうなったのはこの『仮』相棒が原因である。
「エテ公…」
忌々しげに睨むと、優雅に猫を被った顔がかすかに苦笑を浮かべた。
変態大富豪は一種うっとりとその眺めに見入っていた。
綺麗な顔立ちをした護衛と優雅な青年の組み合わせに興味をそそられてきたが、思ったとおりだった。
長椅子に仰向けになった護衛の上に覆い被さるように黒髪の主人がかがんでいる。主人の方は手慣れているようで、護衛の耳を軽く食んで僅かな抵抗を無効化している。かの護衛は見た目どおり耳が弱いようだ。逃げるように緩く頭を振るのが嗜虐心をそそる。
主人に逆らってはいけないと思ったのだろう、だらりと下げられた手は時々痙攣して持ち上げられようとするがすぐにぱたりと落ちる。
ぷつん。
突然映像が途切れて、変態大富豪は唸り声を上げた。
「故障か、くそっオンボロが」
「誰かいるのか」
中から声が聞こえ、変態大富豪は飛び上がって退散した。
「…行ったぞ、離れやがれ」
険悪な表情で邪険に自分の上にのしかかった男を払い除けると、DDは立ち上がった。
「あと20分でクライアントが来る。そこでこの仕事は終りだ」
しれっとした表情で座りなおした≪貴族≫の異名を持つ男は続けて言った。
「で、一つ頼みがあるんだが―――」
DDは不機嫌に振り向いた。
「では、依頼した物は」
「アーティ」
依頼人は、ゴロツキだと思っていた彼らに正装が似合う事に意外さを覚えながらとりあえずはそう訊ねた。
すると、獣耳を立たせたDDの周囲を不規則な動きで漂っていた電子妖精――気まぐれで希少な存在だ、なぜ一介のゴロツキなどと一緒にいるのかはわからない――から光のリボンが伸び、秘書の持つ携帯PCに情報を注ぎ込んだ。
「確認しました」
自分の後ろの秘書が頷き、男は立ち上がった。ドアの向こうにその姿が消えると、危険な光を目に宿し、とうてい友好的には思えない表情の男たちがぞろぞろと室内に現れる。
黒髪の「仮」相棒は無表情。
DDは男たちを見てにやりと口の端を歪めた。
「やってくれんじゃねーか、あの肉ダルマ」
吐き捨てるDDに、男たちが色めき立つ。
「言っただろ?口封じに殺す気だって」
「ハッ、金持ちのお貴族様におかれましてはゴミ虫なんざ残しておくワケねーってか?」
「実に楽観的でド阿呆な依頼人だな。次からは誰も依頼を受けなくなる」
「俺とかお前みてーな有名どころ雇って殺そうとしといて何もねぇと思ってるところがアホだよな。これで奴の腐れた脳ミソは街中に知れ渡るだろーよ」
楽しげに軽口を叩きあう二人に、男たちは無言で銃を向けた。
一瞬。
男たちの指が引き金を引くまでの、ほんの一瞬。
DDは黒髪の「現・依頼人」を長椅子の影に突き飛ばし、自分は天井に向かって跳躍した。
――――――
20分前――
――――――
「俺を雇うだぁ?」
「今回の依頼主は俺たちを殺す気だろうしな」
「てめぇで凌げよ。俺はンな簡単に殺される気はねぇし」
「だからお前に頼んでる。戦闘スキルはお前ほどにはないからな」
「知るか。むしろそのまま死んでくれりゃスッキリするんだぜ、俺はな」
ちらり、と互いに視線を合わせ、どちらからともなく口を開いた。
「25万」
「10万」
「それくらいで俺を雇えると思ってんのか。22万」
「その場を凌いで脱出してもらうだけだろう?14万」
「ケチくせぇな。てめぇの命だろ?」
「ぼったくりは御免だからな。どうなるかわからないってのもある」
「18万。これならギリギリだ。どうする」
「いいだろう。払い込みを確認してくれ」
―――――
現在――
―――――
天井を蹴って男たちの後ろに立ったDDは虚を突かれた男の銃を蹴り上げローリングソバットの要領で男二人を昏倒させる。同時にキャッチした銃で別の男たちの胸を撃ち抜く。こちらに銃を向けた男の脳天を、向かい側から飛んできた銃弾が抉った。
DDに注意が向いた隙に残りの男たちを永遠に沈黙させた「現・依頼人」、元・仮相棒は長椅子の影から立ち上がって優雅に笑った。
「肉ダルマはどーすんだ?」
「お前はどうなんだ」
「さぁな。別に放っておいてもいいし再起不能にしてやってもいい」
「始末はきちんとしておかないと後々火種になるぜ。それとも、DDお得意の情けか?」
「知るかっての。金持ってるだけの小物、いつでもどうにでもなる」
「そうか・・・?まぁ、俺は用心しておくがな」
DDとて、それくらい分かっている。ただ、追いかけていって殺す気が起きないだけだ。
「じゃあな、二度と会わねぇことを祈ってやる」
「機会があったら、くらい言え。俺もこんな命がいくつあっても足りないような仕事は遠慮願いたいがな」
左右に分かれた彼らは、もう他人だった。振り返りもせずにそれぞれのねぐらへ帰ってゆく。
アーテミシアがふわふわとDDの肩に止まる。
「あ?何だアーティ、もう次の依頼来てんのか?」
そう急がない依頼だ。
「一眠りしてから行くか」
くあ、と欠伸して刀をベルトに入れる。別にいつもの事だ。ただ今回はいつもより疲れたというだけで。
懐からタバコを取り出し火をつけながら、DDは薄汚れた街にとけ込んでいった。
終り。です。
……………逃走っ!