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螺旋特急ロストレイルに登録しているキャラクター背後のブログです
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あかいゆめなのに何故ブログは青っぽいのかと聞かれて詰まってしまったどうしようもない生き物。色は青の方が好きなのです。
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「まちゃあがれ!」
「ちくしょうあの野郎殺してやる!」
チンピラたちがぜえぜえと呼吸を乱して悪態をつく間に、青年はあっという間に廃墟の中に消えていた。
その廃墟は、今でこそ荒れ果てていたが、昔は栄華を誇ったであろう、見事な細工があちこちに見られる荘厳な建物だった。
中庭は今でも誰かが世話をしているのか、ベルベットのような芝生と家庭菜園がある。
廃墟の庭の世話などする者がいるのだろうか?
そんな当然の疑問に気付くチンピラはいなかった。



「父上お早うございます!」
軋むドアを開けて青年が叫んだ先には、ホコリをかぶった天蓋のベッド。その上で、シーツに包まれて健やかに眠る侯爵、只今56歳。
「んー」
「起きて下さい父上。あんまり無駄に寝てるとご飯抜きますよ」
「ご飯抜きは嫌だ~」
「敵襲!」
「何!?数と兵装は!!」
がばりと起きた父親に、青年はベッドの脇に放られていたシャツを拾って渡す。これだから軍育ちは。
「数は8,9人、十中八九ナイフ保持してます」
「うむ、ならばお前一人で充分だな。任せた」
「父上殺っちゃってイイですか?」
怖い笑みを閃かせて父親の襟首を掴むが、
「出来るもんならやってみい、ほーれほーれ」
とのたまった時点で窓の外に遠慮容赦なく父親を放り出した。
「のぉぉぉぉぉぉ~」と叫びながら10メートルの高さを落ちていく父親を見離して、青年が踵を返すと。
「父親を突き落とすとはなんたる親不孝者めが!成敗!」
とか叫びながらリターンしてきた侯爵、元大将軍近衛が飛びかかってきた。
「2階の窓に即座に戻ってくるバケモノに言われたくないですね」
予想していた青年は掴んでいたシーツをばさりと父親にかぶせた。
「もがっ!?なにおう!お前だって出来るではないか!」
「できるわけないでしょうこのボケ老人!常識で考えて下さい!自分は訓練も受けていないただの人間ですよ!」
「わしだって訓練なぞ受けとらんかったぞ」
「肉体魔人な父上と一緒にしないで下さい。リターンしてくる暇があったらチンピラを片付けにいって下さいね」
そう言ってさっさと出て行く息子を寂しげに見やって、侯爵はちいさなペンダントをぱちりと開いた。中に入っていたこれまた小さな写真に語りかける。
「マイハニー、わしらの息子は何故あんなにわしに優しくないんだろうかのう・・・わしももうすぐお前の元に、」
「母上はまだ存命中です隣の部屋にいるでしょう!」
息子からの厳しい突っ込みに、父親はにんまりと、「そうそうこれこれ」みたいな確信犯的な笑みを浮かべたのだった。


「どこに行きやがった!」
「ここだ」
「何っ!?」
頭の悪い悪役そのものの台詞を吐いたチンピラの頭の上に、植物が生えたままの植木鉢が落ちてきた。頭に直撃され、植木鉢がばかりと割れる。中の土がこぼれ落ち、植わっていた植物があらわになったとき―――

ぴギャああああああああああああああああああああああ

植物が絶叫を放った。

耳を塞いでその光景を見ていた青年は、人型の植物の根にぽっかりと開いた「口」が閉じるのを確認してから、耳を塞いでいた手を離した。
「丁度良かったな」
マンドラゴラは、育成が難しい。土から引き抜く際、人を気絶させ、時には死に至らしめる絶叫を放つため、上手く育成できたとしても使うことが出来ない。そのため、時折魔法薬市に出るマンドラゴラは高値がつくのだ。
「これで暫くは食うに困らない」
そして、青年は植木鉢でマンドラゴラを育てていた。ちょうど、そろそろ抜かなければならないときだったのだ。
気絶して泡を吐いているチンピラ3人を見下ろして、呟く。
「まずは3人」

からん。
石ころが転げ落ちる音に、チンピラ別働隊の面々はふりむいた。
「こっちか!」
「あの野郎!」
口々に罵りつつ先を争って走り出す。崩れかけた石造りの仕切りの向こうに、倒れている人影を認めたとき。
「あがっ!」
「ぎゃっ」
「いてえっ!」
どこからか矢が飛んできて、チンピラたちの足に刺さる。
がしゃん、と音がしたほうを向くと奇妙な形状の弓が落ちている。
顔に影がかかったことに気付いて上を見たチンピラの1人は、迫ってくる靴を見て、一瞬何が起こっているのかわからなくなった。そしてわからないまま靴が顔面に激突し、彼は意識を失った。

父親が敵国の武器職人と仲良くなって作ってもらったという、3連続で矢を発射することが出来る妙な形の弓を遠くに放り投げ、チンピラたちがその弓の落ちる音に反応してそちらを向いたと同時に、青年は木の上から身を躍らせた。寸前でこちらに気付いたチンピラの顔面を踏み潰しつつ右隣の男を剣の鞘で殴り飛ばしふりむきざまに剣を抜き最後の一人に突きつける。
父親がアレなので、剣はある程度叩き込まれた。硬直した男のこめかみを剣の柄で殴り、青年は溜め息をついて剣を鞘に仕舞いこんだ。
「おっと」
いまの立ち回りの最中、ずっと最初に踏み潰した男の顔面を踏みにじっていたことに気付いた。
なんとも哀れなチンピラである。
廃墟の中から、青年の父親がずるずるとチンピラ二人を引き摺ってきた。
「二人片付けたぞ~」
「家は壊しませんでしたか?」
「・・・」
「壊しませんでしたか?」
怖い顔で聞き返す息子から目をそらしつつ、侯爵はわざとらしく口笛を吹いた。
「今時時代遅れな誤魔化し方をしないでもらえますか父上」
「にーちゃーん!」
「わあすげえ!いっぱい倒れてる!」
「にーちゃん!おれたちひとりだけたおしたぞ!」
「ちゃんと身ぐるみ剥いでドブにすててきたぞ!」
「よくやった。特に最後の」
頷いてぽんぽんと少年達の頭を撫でた後、転がっている男たちの身ぐるみを剥ぐよう指示する息子の姿を見て、侯爵はよよよと泣き崩れるフリをした。
「だんだん息子が非道になっていく・・・」
「何かおっしゃいましたか父上」
「イヤなんでも」
耳ざとく聞きつけて鋭く言葉を発した青年に、父親は冷や汗を垂らして知らんぷりをした。
「今日は稼ぎがなかったからな、食事抜きを覚悟していたんだが、こんな大金が転がり込むとは思わなかった」
「えものだね!」
「かもだね!」
「かねづるだね!」
「でもにーちゃんおれたちよりスリ上手いじゃん」
金目の物など身につけているわけもない男たちから剥ぎ取るのは、文字通り『身ぐるみ』だ。シャツ、靴、ズボン、帽子、「全て」。
「スリは卒業した。名前が売れすぎたしな」
名前が売れると官憲が出てくる。青年は捕まるのなんて真っ平ごめんだった。捕まるのが好きな輩などいないだろうが。
「にーちゃん、今日は髪はもらわないの?」
「手入れ悪いからうりものになんないよ」
「にーちゃんの髪はすごくたかくうれそうだけど」
「そんなことしたらあとでおこられるもんねー」
「息子の暗部を告発された・・・」
「なにかおっしゃいましたかムダ飯食らい」
「なんでもないぞよ」
貴族の家に生まれたにもかかわらずあまりの貧しさにすっかりたくましくなってしまった我が息子を垣間見て、侯爵は世を儚むのだった。

「そういえば父上、マンドラゴラが無事に収穫できましたよ」
「マンドラゴラ?・・・まさか、あの、魔法薬の原料の・・・」
「そうです。昔父上が「味見してみろ」とか言って自分に食べさせた、あの人型の植物ですよ」
「いや、それはだな・・・お前に世の中の厳しさを教えてやろうと」
「どんな厳しさだっていうんですかマンドラゴラを食べることが。いや確かに厳しい味でしたけどね。・・・父上、父上も世の中の厳しさを味わってみたらどうですか?」
「ま、待て、その右手に持っている人型の植物は・・・!」
「はい父上口を開けて下さい、開けないとこじ開けますよー」

「にーちゃんコワイ」
「まんどらごらってどんなあじなの?」
「にーちゃんによると、天国と地獄を瞬時に行き来して宇宙の深遠を垣間見てからブラックホールの中の太陽になって地獄の罪と罰を全部を飲み込んじゃったような味だって」
「むずかしいね」
「うん」
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