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螺旋特急ロストレイルに登録しているキャラクター背後のブログです
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あかいゆめなのに何故ブログは青っぽいのかと聞かれて詰まってしまったどうしようもない生き物。色は青の方が好きなのです。
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DDはしばらくぶりにマーケットに足を伸ばして生活用品の買出しに行っていた。
DDの棲家は廃ビルの2階だ。いや、廃ビル同然のマンションというべきか。住人は10人前後いるし、所有者が最上階に住んでいる。住人とも大家ともそれほど交流があるわけでもなし、プロフィール等の詳しいことは知らない。一応一通りの調査はしてあるが、まあ「それ以上」のことは知らないというやつだ。
塗装が剥げて灰色のコンクリートが支配する外壁は、下のほうが大量のラクガキで埋め尽くされていた。見慣れた光景だが、今日はどうやら尋常ならざる出来事があったようだった。

マンションの外壁にキリストよろしく磔になって事切れている『蟲』。蛍光オレンジの体液が鮮やかに壁を彩ってラクガキの上を伝っている。人間ほどの大きさのあるそれも、いわゆる虫型の『異形』だ。
あまり眺めていたくもないそれから視線を外してさっさと廃ビル、違った荒れ果てたマンションに入る。エレベーターはアクションの果てに馬鹿がワイヤーを切ったらしく、誰かの悲鳴と共に落ちてから誰も近寄らない。
アーテミシアがひゅいんと動いてDDの頭の上に陣取った。それを慣れた風に首を曲げて転げ落としながら、ドアを開けて―――閉めた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あぁ畜生。この世の神は意地悪だ。
ノブを掴んだまま一瞬天を仰ぐ。
ドアの向こうでは、神なんて屁でもないと自負しているDDに神を呪わせるという偉業を達成した何かがあるらしい。
溜め息をついて踵を返し、一階に降りる。
そこに異様な存在感――真っ赤なバルブつきで、『Authority only』という文字がやけに流麗な文体で書かれている――を持って佇むドアをノックした。
「いるか、イカレ帽子(マッドハット)」
その声が終るかどうか、扉がガキョガキョガキョガキョと変な音を立てて折り畳まれ、中から――何か傘にしか見えない奇妙な帽子を被った小さい男が飛び出してきた。
「やあ!やあやあやあこれは眼帯君じゃないかネ!とうとう僕の研究の被検体になる決心がムグムグ」
目は銀色のスコープで隠され、真っ赤な白衣を着た金髪の変人はDDに突進してがしっと口を掴まれてバタバタと両手を動かした。DDの方がリーチが長いから出来る芸当である。
「フザけたこと言ってんなボケ。ちょっと荷物預かれってだけだ」
「んんむ?」
荷物?と口を塞がれたままで首を傾げる。拍子にその奇妙な帽子が落ちそうになって慌てて首を戻した。
その帽子は見れば見るほど奇妙だ。
一番上に開いているのは間違いなく傘で、その下には銀色のアームがきちんと収納され、その下にはモーターがあり、なんだかよく分からない銀色の球体、まるで花のようにアンテナがいくつも咲いていて、目元を隠すスコープには帽子からコードが繋がっている。
とても帽子とは思えない「なんかヘンなもの」だが、この男は帽子と言って憚らない。そのうち、誰かが「イカレ帽子」マッドハットと呼び、今ではこの変な男は気狂い帽子屋「マッドハッター」と呼ばれるようになった。――お似合いだこの野郎。
「客を相手しなきゃなんねーからな」
「フム。接客の邪魔になるので荷物を預かって欲しいと。光栄だヨ!人間の私を信用してくれるんだネ!」
このイカレたファッションセンスの男は、異形を研究している純血の『人間』だ。
いや、案外頭の中身が異形化しているかもしれない。見事なイカレ具合だ。
『純血の人間』は異形を差別し侮蔑している。異形もそんな、自称『純血』どもを軽蔑している。そんな中で、この男は随分変わり者だ。異形を研究している学者は他にもいるが、彼らは皆人買いから異形を買って研究している。
ところがこのマッドハッターはいきなり異形の多く棲むこの街に来て『被検体募集!』と張り紙――このハイテクの時代にだ――をしたのだ。おまけに、軽蔑の視線にも振るわれる暴力も彼特有の「ポジティブ」でスルーし、今では「なんかあんまりお近づきになりたくないヘンなの」という認識をもたれている。この街でそう思われるのもある意味スゴイ。
しかしまぁ、つまらない盗みとかピンハネとかをする脳のあるやつではないので(というか研究以外のことに全く気が向かないらしい)たまに体よく使っている。
「いいとも!この僕にキッチリ任せておきたまえ!開けたら爆発する金庫に入れてちゃんと保管するヨ!」
ものすごく上機嫌でものすごく聞き捨てならないことを口走るイカレ帽子に
「フツーに部屋に置いとけ。言っとくが一時間後にこれがこのままここになかったらそのドタマの上の物体を6ツに斬ってゴミにしてやるからな」
言い捨ててさっさと通路に出る。この変脳に構っていても疲れるだけだ。
「ところで私の被検体になる気はないのかネー・・・・・・」
ガキョガキョと再び扉が閉まり、マッドハッターの声が消えた。
「やれやれ・・・・・・」
DDの頭の中は既に自分の部屋にいるモノをどう片付けるかということで占められていた。
「銃は部屋が汚れるしな・・・」
やはり、ナイフか。
彼のいつもの得物を使えれば手っ取り早いのだが、あれは切れ味が良過ぎる。部屋のなかには壊すとまずい物も置いてある。やはりナイフか。
ドアの向こうの音を探ると、まるで目で見るかのように詳細な情報が耳から流れ込んでくる。異形化したDDの耳はもはや超感覚とでも呼ぶべき域に達している。
「・・・。5・・・8、9、・・・・・・14」
呟いてナイフを抜き、ドアを開けた。
襲い掛かってきた小型の蜘蛛――体長30センチくらい――をナイフで突き刺し通路の壁に叩きつける。一斉に飛び掛ってきたその他直視したくない蜘蛛をさっと避けて、それらが通路に飛び出したのを確認して部屋に入りドアを閉じた。ざわり、と部屋の中を好き勝手に蹂躙していたいくつかの黒い物体が敵意を帯びる。
すぐさま向かいにある窓を開けて、距離を計りながら襲い掛かる蜘蛛を次々と窓の外に落とす。腰の銃を抜いて外に落とした蜘蛛を全て撃ち殺し、その間襲いかかってきた蜘蛛はナイフで外にはじき出し、同じように撃った。
ぴしゃりと窓を閉め、溜め息をつきながら室内を見回す。
多少クモの糸がかかっているが、特に損害はない。
通路に追い出したクモは・・・イカレ帽子に任せよう。
アーテミシアに頼んでマッドハッターの帽子・・・らしきものに付属の端末に声を繋ぐ。
「2階通路にクモ型の異形が4匹いるぜ。たぶん、生まれたてのホヤホヤのがな。欲しけりゃとってけ」
『ワホーウ!なんて素敵なコト言ってくれるんだい眼帯君!もちろんいるともサ!』
「ヒトの頭くらいある黒い蜘蛛だ。脳が火星に飛んでても間違えんなよ、4匹だ」
『フッフーン一匹たりとて逃しはしないヨ!ところで眼帯君被検体に』
ぶちっと通信を切ってDDは壁の穴に向き直った。そこからは蛍光オレンジの体組織が絡みついたモリが生えていた。
「どこのどいつだヒトん家の壁に穴あけやがって・・・」
帰ってくる時にぼんやり眺めていた、壁に磔にされた虫が、ちょうどDDの部屋の壁の外側だったのだ。そして、虫の腹の中にいた卵が臓腑と一緒にDDの部屋の中に落ち、孵化した、と。
DDはとりあえず、蛍光オレンジの臓腑と白い卵を軽く斬って凍らせた。これ以上部屋が汚れるのは御免だ。
通路からマッドハッターのネジの外れたような笑い声が聞こえてくる。
DDはまた溜め息をついて通路に出た。

数日後、外泊したDDが我が家に戻ると、マンション全体にクモの糸がかかっていて繭のようになっていたのだが、マンション住人数人が出張って中から、外からDDがクモ(体長2メートル前後)退治をするハメになったとか。
クモをマンションの外壁に磔にした「狩り師」ハンターがその後どんな目にあったか、知っているのはマンションの住人だけだという・・・。
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